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シルクフライス生地の開発ストーリー

MUUGIのシルク100%フライスシリーズは、糸からこだわったオリジナルの生地で作られています。生地から製作することは、アンダーウェアブランドに限らず、ファッションブランドにおいて少し珍しいケースかと思います。試行錯誤を繰り返し、理想的なアンダーウェアのベースとなる生地を目指して開発しました。
このページでは、そんなオリジナル生地について詳しくご紹介します。

そもそも、衣服は大きく3つのジャンルに分類されます。

  • 織物(布帛)
  • カットソー(丸編み)
  • ニット(横編み)

MUUGIのシルクフライスシリーズは、このうちのカットソーに分類されるものです。カットソーとは、糸を編んで丸編みの生地(ニット)をつくり、それを裁断して縫製する衣服のこと。「cut(裁断)」と「 sew(縫製)」が組み合わさった言葉です。

一般的に、ファッションブランドがカットソーをつくる際は、市場に流通する生地の中から使用するものを選ぶことが多いと言われています。
この場合のメリットは、試作研究をする必要がないので開発のスピードが早く、開発コストが下がること、ある程度の生地量がまとめて生産されるため、生産コストを比較的抑えやすいことがあげられます。

しかしMUUGIでは、流通する生地を選ぶのではなく、オリジナル生地を作るという道を選びました。
なぜなら、私が作りたいものにぴったりの生地が、世の中に存在しなかったからです。そもそもシルク100%の生地は単価が高いため一般的なアパレルメーカーには購入されにくく、あまり流通していないもの。しかも、私が求める細かな条件—おうちで気軽に洗濯ができて、手触りがなめらかで心地よく、ほどよい伸縮性があり、厚すぎず薄すぎず—を満たした生地は、非常にニッチ。相談した生地工場さんには、「そんなもの流れてる(流通している)わけないよ」と言われ、オリジナルの生地作りからスタートすることになりました。

生地作りは、その道のプロフェッショナルである生地工場さんとの二人三脚です。中でもシルクや極細の糸など、編むのが難しい生地を作ることが得意な工場さんとご縁があり、共同開発がスタートしました。

生地を作るには、様々な変数があります。糸の種類、番手(糸の太さ)、編み方、度目・ゲージ(編みの密度)、などなど。これらの要素の掛け合わせで姿形が異なる生地が出来上がります。
ここでは、番手、編み方、度目について詳しく説明させてください。 

まずは、「糸の番手」。
シルク100%の糸でも、様々な「番手」のものがあります。「番手」というのは、糸の太さに関係する指標で、概ね数字が大きければ大きいほど糸が細くなると考えていただければと思います。(番手の世界はかなりややこしいので、細かな説明はここでは割愛しますが、)ざっくりお伝えすると、綿番手(綿糸に使用される番手)で20番手以下のものが「太番手」で肉厚でしっかりした質感、30から50番手程度が「中番手」で一般的なTシャツなどに多く使われるもの、60番手以上のものが「細番手」で光沢感やなめらかさのある生地に仕上がるといわれています。さらに、100番手以上のものは「超細番手」と言われます。

次は、「編み方」。
カットソーに使われる丸編みの生地には、「天竺」、「フライス」、「鹿の子」など色々な編み方があります。たとえば一般的なTシャツは、「天竺編み」のものが多いです。
同じ糸でも、編み方によってその伸縮性や厚み感、なめらかさなど、出来上がる生地の性質が大きく異なります。

そして、「度目」。
度目とは、編みの密度のこと。一般的に、密度が高い「度詰め」にするとしっかりとしたコシのある風合いに、密度が低い「度甘」にすると緩くてやわらかな風合いになります。この設定によっても生地の手触りや質感、キックバック(元に戻る力)、弾力などに大きな違いが出ます。

さて、MUUGIオリジナル生地の共同開発の話に戻ります。

生地工場さんに、今回の製品コンセプトや理想の生地の要件を伝えたところ、まず糸については「120番手か240番手はどうだろう」という提案が。さっそく2種類の糸を取り寄せ、試作をすることになりました。これらは細番手界の中でもかなり細い糸。特にシルクの240番手となると、そもそも流通量が極めて少なく、扱える工場もほとんどない難しい糸です。糸は細くなれば細くなるほどロスも増えて生産性が低くなり、高い技術力がないと扱えないのです(共同開発した生地工場さんは、シルクの240番手が扱える工場として、駆け込み寺的な存在なのだとか…)。

次に編み方の候補としては、一般的な「天竺編み」に加えて、横方向への伸縮性の高い「フライス編み」を候補に。
そして「度目」についても適した設定を探しながら、開発を進めました。

いくつかの生地を試作し、その生地で実際にカップ付きアンダーウェアのサンプルを作成・試着テストを行った結果、最終的に採用したのが240番手のフライス編み、そして度目を最も詰めた「度詰め」の生地になりました。

糸については、120番手だと厚み感がありもっちりとした手触り、240番手だとなめらかさで繊細さのある質感と、どちらも良い仕上がりでした。ただMUUGIでまず作りたかったカップ付きアンダーウェアは、胸の部分が前身頃3枚重ね、後身頃2枚重ねという構造。120番手では厚みが出過ぎて暑苦しさが出てしまうという難点があったこと、240番手ならではの繊細な風合いに唯一無二性を感じたことなどから、240番手を採用することにしました。

編み方については、「フライス編み」の大きな特徴である横方向への伸縮性がもたらす身体へのフィット感、呼吸に合わせてスーッと生地が寄り添ってくれる感覚が本当に心地よく、こちらを採用することにしました。

度目については、240番手という極めて細い糸を使用しながらも、しっかり感を出すために、最大限度まで詰めたものがアンダーウェアとして最適という結論になりました。
240番手という極めて細い糸は、その細さゆえに、ゆるくぺらっとした感じだったり、伸びたあとの戻り(キックバック)が弱かったりと、頼りない風合いになってしまいやすいのです。そのようなゆるい生地でアンダーウェアを作ると、バスト周りに欲しい、ほどよいフィット感が得られません。
しかし度目を限界まで詰めることで、糸の極細さとのバランスが取れ、やわらかさがありながらもしっかり感もある生地に仕上げることができました。

生地を横に伸ばしてもスカスカにならない、ぎゅっと詰まった密度感、そしてほどよく戻ってくれることで体にやさしくフィットする心地よさ。一度着用すれば、そんなMUUGIオリジナルシルク生地の良さを感じていただけるかと思います。

超極細の糸を最大限度まで詰めてフライス生地に編み立てるというのは、非常に難易度が高く、熟練の職人さんの知識と技術があってこそ実現できるもの。
このような難しい生産の工程には多くの困難も伴うのですが、だからこそ、他ではなかなか出会えない価値の高いものづくりになると思い、この生地を大切に作り続けています。

さて、シルク100%、240番手という超極細の糸、フライス編み、度詰の設定。生地作りの背景のうち、目で見て、触って、着用することで感じていただける要素についてお話してきました。
さらにこの生地には、長期間着ていただくことで実感できる要素もプラスしています。

それは、「ウォッシャブル加工」です。

アンダーウェアは毎日使うものだし汚れも気になるから、お家で気軽に洗濯したいもの。そして、すぐにダメになる生地ではなく、できるだけ長く使えるものにしたいというのは、開発当初からの絶対条件でした。
ですが、シルクは元来、水や摩擦に弱いとても繊細な素材で、洗濯によってバサバサに毛羽立ったり、白っぽく見えたりしてしまいがち。この現象を専門用語で「フィブリル化」と言います。シルク繊維が繊維状の構造(フィブリル)に分解され、表面が粗くなったり、白っぽく色落ちして光沢がなくなったり、強度が低下して破れやすくなったりしてしまうのです。
お客さまからも時々、「昔、シルクの下着を買ったけれど、すぐにボソボソとダメになってしまった」「何回か着たら生地が破れてしまった」などというお話をお伺いするのですが、おそらくそれはシルクがフィブリル化してしまったものだと考えられます。

このシルクのフィブリル化を防ぐための技術が、「ウォッシャブル加工」です。
近年、シルクへのウォッシャブル加工技術が進んでおり、「洗えるシルク」などと表記されている商品も増えてきた印象があります。
ただ、ひと口に「ウォッシャブル加工」と言っても、加工の手法・度合いは様々。
ウォッシャブル加工は、加工をかけるタイミングによって主に3つの種類に分けられます。
一つは、裁断する前の「生地」に加工をかける方法。一番表面的な加工になります。
二つ目が、生地になる前の「糸」の段階で加工をかける方法。くるくると撚(よ)り合わされた糸の表面に加工がかかるイメージです。
そして三つ目が、糸にする前の「わた」の状態に加工をかける方法。ミクロな想像になりますが、撚り合わさる繊維の内部まで加工がしっかりと浸透しているイメージになります。

MUUGIでは、最も早い段階である「わた」の状態でウォッシャブル加工をかけ、それを紡績した糸を採用し、生地を作っています。
そうすることで、より水や摩擦への耐久性が強くなり、さらに洗濯によって加工が落ちることもなく半永久的に効果が続きます。洗濯を繰り返しても、ボソボソしたり白っぽく色褪せたり、繊維が弱くなったりしません。

一般的なシルク(ウォッシャブル加工なし)を濡らして摩擦をかけたもの。繊維が分解されてダメージを受けています。

わたの段階からウォッシャブル加工したシルクを濡らして摩擦をかけたもの。繊維がダメージを受けていないことがわかります。

その強さは、単なる「手洗い可」ではなく、普通のお洋服と同じように、洗濯機でジャブジャブ洗っていただけるほど。(ただしより長く最高の風合いを楽しんでいただくため、できれば中性洗剤や手洗いモードのご使用をおすすめしています。あと、ネットには必ず入れてくださいね。)かなり長期間お使いいただいても、肌触りの良い柔らかな風合いや、色合いの深さは変わらぬまま。
ぜひ長くご愛用いただき、この生地の心地よさと変わらぬ強さを味わっていただきたいなと思っています。

洗濯機で30回洗ったものの比較。左側が一般的なシルク(ウォッシャブル加工なし)、右側がわたの段階からウォッシャブル加工したシルク。左側の未加工のシルクは、白化して生地が傷み、ボソボソとした風合いになってしまっています。右側は、白化せずにしっかりと黒いまま。風合いも変わっていません。

以上がMUUGIのシルクフライス生地についてのお話でした。
こちらのページの後半に、この生地を実際に作っている工場を見学した記事を載せています。
ご興味を持ってくださった方は、ぜひこちらもご覧いただけましたら幸いです。